
脊椎関節炎
脊椎関節炎
脊椎関節炎は様々な疾患を含むグループ名になります。脊椎関節炎に含まれる疾患として、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎、反応性関節炎、分類不能脊椎関節炎があります。これらの疾患では様々な症状がみられます。よくみられる症状として、腰背部や臀部の痛み、関節の痛みや腫れ、付着部(筋肉が骨につく部位)の痛みがあります。痛みの症状以外にも、眼の症状や皮膚の症状など多彩な症状がみられます。脊椎関節炎に含まれる代表的な疾患について紹介します。
強直性脊椎炎は、脊椎や仙腸関節(骨盤の仙骨と腸骨から構成される関節)の強直(骨と骨が癒合した状態)を特徴とする疾患です。日本人の強直性脊椎炎の患者数は約5000人と稀な疾患で、男性に多い疾患です。好発年齢は10~20代で、青年期から成人期に発症する方が多い疾患です。強直性脊椎炎の主な症状は腰や背中、臀部の痛みです。強直性脊椎炎の腰背部や臀部の痛みは、動いていると楽になり、安静にしている時や寝ている時に悪化するという特徴があります。強直性脊椎炎の約3割の方が、脊椎の高度な強直をきたすといわれています。脊椎の強直が進行すると、腰を曲げたり、首を回したりすることが難しくなり、日常生活動作がしづらくなります。腰背部以外にも、股関節や膝など大きい関節に痛みや腫れがみられることがあります。また強直性脊椎炎の約3割の方がブドウ膜炎という眼の病気を発症します。
強直性脊椎炎の診断は、問診所見、診察所見、血液検査、画像検査(レントゲン検査、MRIなど)を用いて行われます。強直性脊椎炎は稀な疾患であるため、発症してから正しく診断されるまでに長期間を要したり、別の疾患として認識され治療を受けているケースが多くあります。
強直性脊椎炎の治療は、まず非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。NSAIDsを使用しても、痛みが改善しない場合は、生物学的製剤やヤヌスキナーゼ阻害剤(JAK阻害剤)の使用がすすめられます。以前は強直性脊椎炎に対して有効な治療薬がほとんどありませんでしたが、近年、強直性脊椎炎に対して効果の期待できる薬剤が複数登場し、治療の選択肢が増えてきています。また痛みの軽減や脊椎、関節の運動制限の予防を目的にリハビリが行われることがあります。
乾癬性関節炎は、乾癬という皮膚の病気が原因で関節の痛みや腫れが生じる疾患です。乾癬の患者さんの約10%が乾癬性関節炎を発症するといわれています。男性と女性の比率は同等で、好発年齢は40代ですが、どの年齢でも発症する可能性があります。乾癬性関節炎の原因は、まだはっきりとは分かっていませんが、糖尿病や肥満などの生活習慣病が関連しているといわれています。乾癬性関節炎では、様々な関節に痛みや腫れが出てきますが、特に手の指の第1関節(DIP関節)に症状が出ることが多いです。また脊椎や仙腸関節にも痛みや動きの制限を生じることがあります。そのほか、爪の変形や踵や膝などの付着部に痛みがでることがあります。問診所見や診察所見に加えて、血液検査、レントゲン検査、超音波検査など各種検査の所見を参考にして診断が行われます。
乾癬性関節炎の治療では、NSAIDsや関節リウマチに対して使用される薬(抗リウマチ薬)などが使用されます。症状が強い方には、生物学的製剤やJAK阻害剤の使用が検討されます。乾癬の病状や乾癬に対して行われている治療を考慮しながら、薬剤の選択をする必要があり、リウマチ医と皮膚科医が協力して治療にあたることが望ましいです。また生活習慣病がある方には、生活習慣の指導や内科的な治療を行います。
乾癬の皮疹
炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患に伴って、関節や付着部の痛みや腫れ、腰背部や仙腸関節の痛みが生じる疾患です。炎症性腸疾患の方の約5%の方が、これらの症状が生じるといわれています。問診所見や診察所見に加えて、血液検査やレントゲン検査、MRI検査などの検査所見を参考にして、診断が行われます。
炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎の治療では、NSAIDsや抗リウマチ薬などが用いられます。症状が強い方には、生物学的製剤やJAK阻害剤の使用が検討されます。炎症性腸疾患の病状や炎症性腸疾患に対して行われている治療を考慮しながら、薬剤の選択をする必要があり、リウマチ医と消化器内科医が協力して治療にあたることが望ましいです。
SAPHO症候群は、脊椎関節炎に含まれる疾患ではありませんが、脊椎関節炎と似たような症状がみられます。SAPHO症候群は、骨や関節に炎症が起きる疾患で、全身の様々な部位に痛みがでてきます。特に前胸部(鎖骨や胸骨付近)に痛みが出ることが多いです。掌蹠膿疱症性骨関節炎はSAPHO症候群に含まれる疾患です。掌蹠膿疱症(手のひらや足の裏に水疱や膿疱ができる皮膚の病気)の患者さんの10~30%が、骨や関節に痛みや腫れを生じます。日本人の掌蹠膿疱症性骨関節炎の患者数は、約5000人と比較的稀な疾患です。掌蹠膿疱症や掌蹠膿疱症性骨関節炎の原因は、まだ十分に解明されていませんが、喫煙者、扁桃腺炎がある方、歯周炎がある方が発症しやすいことが分かっています。
掌蹠膿疱症の皮疹
SAPHO症候群を発症した方で、喫煙されている方にはまず禁煙をしてもらいます。また扁桃腺炎や歯周炎がある方に対しては、それらの疾患の治療をすることがすすめられます。SAPHO症候群に対する薬物療法は、まだ確立した治療法はありませんが、まずNSAIDsを使用します。NSAIDsを使用しても、症状が改善しない方に対して、生物学的製剤を含む抗リウマチ薬などの使用が検討されます。
脊椎関節炎に含まれる疾患や脊椎関節炎に類縁する疾患は、問診所見、診察所見、検査所見などから総合的に判断し、関節リウマチなど他の疾患を鑑別したうえで、診断する必要があります。脊椎関節炎に含まれる疾患は多彩な症状を呈するため、診断する際には、丁寧な問診や診察が必要です。脊椎関節炎の治療は、抗リウマチ薬が使用されることが多いです。脊椎関節炎には複数の疾患が含まれますが、疾患ごとに効果の期待できる薬剤は異なります。また抗リウマチ薬を使用する際は、副作用に注意を払いながら使用する必要があるため、脊椎関節炎を治療する医師は、これらの薬剤に関する専門的な知識や十分な治療経験があることが望ましいです。
私は大学病院や基幹病院の勤務の際、たくさんの脊椎関節炎の患者さんを診療する機会がありました。その経験を活かして、できる限り正確に診断し、一人一人の患者さんにあった治療を提供します。当院では、脊椎関節炎の診断や治療の際に用いられる血液検査や超音波検査などが、自施設で可能です。また整形外科クリニックの特徴を活かして、薬物療法とリハビリを組み合わせて、より質の高い脊椎関節炎の治療を提供させていただきます。
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