
骨粗鬆症
骨粗鬆症
骨には古い骨が新しい骨に置き換わるリモデリングという機構があります。健常な状態のリモデリングは古い骨が壊される骨吸収と新しい骨がつくられる骨形成のバランスが保たれています。骨吸収を担う主な細胞は破骨細胞で、骨形成を担う主な細胞は骨芽細胞です。年齢、薬剤、ホルモンなどの影響で、このバランスが崩れると骨は脆くなります。骨の質や量が低下し、骨が脆くなり、骨折の危険性が増大した状態が骨粗鬆症になります。骨折をきたすと痛みが出現し、関節可動域の制限や筋力低下により、日常生活動作が制限されます。日常生活動作が制限されると、介護が必要になり、重症の場合は寝たきりになることがあります。骨粗鬆症は、女性に多い疾患で、年齢を増すごとに増加します。日本では、高齢化に伴い、骨粗鬆症の患者さんが1000万人以上いますが、骨粗鬆症の治療が行われているのは、その20~30%といわれています。
骨粗鬆症により骨折が起きると、骨折を繰り返す危険性が高くなります。骨粗鬆症によって起きる頻度の高い骨折を紹介します。
大腿骨近位部骨折は高齢の方が転倒などの外傷によって発生し、股関節の痛みのため歩くことが難しくなる骨折です。大腿骨近位部骨折を受傷すると、自宅での生活は困難になるため、入院や手術が必要になることが多いです。
脊椎圧迫骨折は尻もちをつくなどの外傷により、背骨が潰れて、背中や腰に痛みが生じる骨折です。転倒などのはっきりしたきっかけがなく、いつの間にか脊椎圧迫骨折が発生していることもあります。脊椎圧迫骨折が発生した場合、できるだけ安静にすることが大事です。骨折をして間もない時期に負荷がかかると、さらに背骨が潰れてしまい、慢性的な痛みや姿勢異常をきたします。コルセットを装着して、骨折した部位にできるだけ負担がかからないようにします。腰痛の程度が強いと、入院や手術が必要になることがあります。脊椎圧迫骨折を繰り返すと、姿勢の問題や内臓の問題がでてくることがあります。
橈骨遠位端骨折は、転倒して手をつくことで、手首の痛みや変形が生じる骨折です。変形が軽度であれば、ギプス固定をして治療をします。変形が高度の場合や長期間のギプス固定を避けたい場合は、手術治療が選択されることがあります。
DEXA法は微量のX線を用いて骨密度を評価する方法で、骨粗鬆症の診断において重要な検査です。骨密度は、骨折が発生しやすい腰椎と大腿骨近位部で測定することが推奨されています。骨密度が若年成人の平均値(YAM値)の70%未満の場合、骨粗鬆症と診断されます。また、骨折歴がある方や、ステロイドを服用されている方などの場合は、YAM値が80%未満でも、骨粗鬆症と診断されることがあります。
レントゲン検査で大腿骨近位部骨折や椎体骨折を認めた場合、骨密度の値にかかわらず骨粗鬆症と診断されます。またレントゲン検査は、骨粗鬆症の重症度を判定する際に用いられます。
血液検査は骨粗鬆症の診断や骨粗鬆症に対する薬物療法をする際に必要な検査です。骨密度が低くなる疾患は骨粗鬆症以外にもあります。骨粗鬆症と他の疾患を鑑別するため、カルシウムやリン、骨の形成に関わる酵素であるアルカリホスファターゼなどをチェックする必要があります。また骨粗鬆症の薬物療法をしている方は、定期的にカルシウムの値をチェックすることが望ましいです。
年齢とともに骨は脆くなるため、若い頃から骨を強くする生活習慣を取り入れることが大事です。骨粗鬆症を予防し、骨を強くする生活習慣のポイントは、食事と運動です。骨を丈夫にするために摂取が推奨される食品として、カルシウムを多く含む食品(牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品)、ビタミンDを多く含む食品(魚類、キノコ類)、ビタミンKを多く含む食品(納豆、緑色野菜)、タンパク質(肉、魚、卵、豆、牛乳・乳製品)があります。
運動不足は骨密度を低下させる要因の一つです。適度な運動は骨に圧力がかかり、その刺激が骨の形成を促進します。日常のなかに散歩や階段昇降などの運動を習慣として取り入れましょう。無理のない運動を継続して行うことが大事です。また日光に当たると体内で、カルシウムの吸収に関わるビタミンDが生成されます。1日のうち10~20分程度、日光に当たる時間をつくるようにしましょう。
骨粗鬆症と診断された場合は薬物療法が必要になってきます。骨粗鬆症の薬物療法は継続することが大事です。代表的な骨粗鬆症の治療薬を紹介します。
ビスホスホネート製剤
ビスホスホネート製剤は、破骨細胞の働きを阻害し、骨吸収を抑え、骨量の低下を抑制します。薬の種類によりますが、主に週に1回または月に1回服用する経口薬です。起床時にコップ1杯の水とともに服用し、服用後30分間は横になったり、食事をしたりしないようにする必要があります。経口で服用することが難しい方には、注射の製剤を使用することもあります。
ビタミンD3製剤
ビタミンD3製剤は消化管からのカルシウムの吸収を促進する作用と骨吸収を抑制する作用があります。通常、1日1回服用する経口薬です。高カルシウム血症に注意が必要です。他の骨粗鬆症薬と併用して用いられることが多い薬剤です。
抗RANKL抗体製剤
抗RANKL抗体製剤は、破骨細胞の活性化に必要な物質であるRANKLの働きを阻害する薬剤です。半年に1回注射する薬剤です。低カルシウム血症に注意が必要です。骨を丈夫にするだけでなく、関節リウマチで関節が壊れるのを抑制する効果もあります。
副甲状腺ホルモン
(PTH)製剤
副甲状腺ホルモンの働きによって骨形成を促進する薬剤です。骨折の危険性が高い骨粗鬆症に対して使用されます。薬の種類によりますが、1日1回または週に2回、注射する薬剤です。
抗スクレロスチン抗体
スクレロスチンという物質の働きを抑え、骨形成を促進し、骨吸収を抑制する薬剤です。骨折の危険性が高い骨粗鬆症に対して使用されます。月1回注射する薬剤です。
当院では、DEXA、レントゲン検査、血液検査が自施設で可能です。当院のDEXAは腰椎と大腿骨近位部で測定するため、正確な骨密度の測定が可能です。また血液検査やレントゲン検査を組み合わせて、正確な骨粗鬆症の診断、評価を行います。当院では、様々な骨粗鬆症薬から、骨粗鬆症の重症度だけでなく、生活状況や薬剤の費用負担を考慮して、一人一人にあった治療を提案します。薬物療法が必要な方には、注射の指導やパンフレットなどの資材を活用して、安心して治療がはじめられるようにサポートします。また骨粗鬆症の治療は継続が大事です。骨密度の測定や血液検査で、薬の効果や副作用を定期的に評価し、より安全で適切な骨粗鬆症治療を提供します。
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